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3.ジゼルの義弟、ライナー

Author: 杵島 灯
last update Last Updated: 2025-05-26 19:41:37

「僕、明日になったら国に向けて出発するんです。でも本当はもっとここにいたいです」

 訴える瞳は真剣だった。このままだと従弟は「帰りたくない」とぐずり、周囲に迷惑をかけるかもしれない。

 そう思ったジゼルは腰を屈めて従弟と視線を合わせた。ここは自分がきちんと言い聞かせるべきだ。何しろジゼルは従弟より四歳も年上の“お姉さん”なのだから。

「駄目よ。あなたや叔母様が予定通りに戻らなかったら、国同士の問題になるかもしれないの。そうしたら、みんなが困るわよね」

「……はい……」

「では、ちゃんと帰らなくてはいけないわ」

 夕日を浴びる従弟はうつむき、肩を落とす。その小さい姿はひどく哀愁を漂わせていて、ジゼルはなんだかとても悪いことを言ってしまった気分になった。

 ただ、本音ではジゼルだってこの従弟とまだまだ一緒に遊びたい。それでジゼルは彼に言い聞かせると見せかけながら、実際には自分にも言い聞かせるために付け加えた。

「そうね。次は、長く滞在する許可をいただいてから花の国へ来るといいわ。そうしたら私ともまたたくさん遊べるもの」

 しょげていた従弟は途端に顔を輝かせた。

「僕、また来てもいいんですか?」

「もちろんよ。待っているから、必ず来て」

 従弟は両手を上げて「ぜったい来ます! 約束します!」と叫ぶ。周囲にいた帝国の召使が目を丸くしていたのが印象的だった。

 しかしその出会いから二年後、隣国からもたらされたのは従弟の来訪ではなく「フラヴィが死去した」という手紙だった。

 ジゼルも、ジゼルの父ピエールも大いに悲嘆に暮れ、王宮も暗い空気に包まれた。あの日々のことをジゼルはまだ覚えている。

 それから三年ばかり月日が流れた今日という日に、まさかこんなに嬉しいことが起きるとは。

「フラヴィ叔母様の息子、私の従弟殿! 今度はずいぶん長く滞在する許可をいただいてきたのね!」

「はい!」

 成長した四歳年下の従弟は満面の笑みを浮かべたまま、そして真っ赤な顔のままで長椅子から立ち上がり、優雅に頭を下げる。

「改めてご挨拶申し上げます。――僕の名前はライナー。今日からよろしくお願いします、ジゼル|義姉様《ねえさま》!」

 五年ぶりに聞いたライナーの声はとても美しかった。

 声質は柔らかく、鈴が鳴るように澄んでいて、天上の音色とはこういうものなのかもしれないと思わせてくれる。

 こんな子が自分の弟になると考えると、たまらなく嬉しくてとても誇らしい。

 一人っ子だったジゼルは弟妹の存在に密かに憧れていたのだ。

 ただ、気になることはあった。フラヴィはピエールの妹なのだから、ライナーは花の国の王族の血を引いている。ジゼルの義弟として王家の一員になることに問題はないだろうが、帝国側がすんなりライナーを手放した理由が分からない。

 改めて問おうと父を見たジゼルは、こくりと唾をのんで口を閉じる。

 父の表情はとても真摯だった。おそらく父は『ライナーがこの国に来たいきさつ』を話そうとしている。

 ジゼルのその予想通り、ピエールが次に口にしたのはライナーに関することだった。

「さて。ここからは他言無用といこうか。……ライナー、もう一度確認するけれど、君がこの国に来た理由をジゼルに話しても構わないね?」

「もちろんです、|義父様《とうさま》」

 気が付くとライナーも父と似たような表情をしている。正面に座る男性二人の真剣な様子を目の当たりにして、ジゼルの胸がどきどきと音を立てた。

「では、話そうか。――よくお聞き、ジゼル。実はライナーは『竜の子』という特別な出自なんだ」

「竜の子……」

 ジゼルが言葉を繰り返すと、ピエールは片眉をわずかにあげる。

「おや。その反応は知っていた風だね。もしかしてフラヴィから聞いていた?」

「……ええ。お聞きしていたわ」

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